mitsutabi

2018/12/18 18:51



旅とは、自分の体と心を日常から離れた場所に置いてみること。いつもと違う風と光を浴び、いつも違う人と言葉に触れ、「非日常」で五感を満たしてみる。昨日までの連続を、一度ぷつりと断ち切ってみる。

 

感じることが変わると、考えることが変わる。考えることが変わると、やがて生きかたそのものも変化していく。旅に出る前の自分と、旅から戻った時の自分に、わずかでも変化があったなら、それはきっと”いい旅”だったと言えるはず。

 

長崎・五島列島を舞台に、そんな新しい旅の形を提案している「つめる旅」。今回「みつめる旅」をしたのは、こんな人です。


旅をした人:平田拓嗣さん

大阪生まれの28歳。高校球児として活躍するなどスポーツ万能で、最近ではサーフィンにハマっている。人工知能のディープラーニングを活用するベンチャーを経て、現在はHR(人材)の分野で独立。




平田拓嗣さんの「みつめる旅」in 五島列島

1日目(羽田から長崎経由で鯛ノ浦)

2日目(❶蛤浜付近)

3日目(❷頭ケ島から❸桐古里・若松)

4日目(❸桐古里・若松)

5日目(奈良尾から長崎経由で羽田)


 

既成概念を覆される旅


今回は、いろんな場面で既成概念を覆された旅でした。

 

旅の2日目の夜に、自分たちで釣り上げた鯛をさばいて刺身にして食べたのですが、その味が衝撃的で。都会ではいくらお金を出してもあんなに美味しい鯛は食べられないけど、あの鯛は「タダ」だったんです。あまりに美味しいので、切ったそばからみんな手づかみで口に運んであっという間になくなってしまいました。

 

僕たちは普段、美味しいものを食べるためにお金を出すことが当たり前だと思っているけれど、そうじゃない。お金では手に入れられない幸福感があるんだということがとてもシンプルに理解できました。



 

それから、「自分はなんて無力なんだろう」と感じる場面も結構ありました。

 

東京ではIT/HR(人材)の分野で仕事をいただいて東京で暮らしている僕ですが、五島の自然を前にした時、できることがほとんどないと気づきました。例えば、大きな魚を釣り上げても、それを針から外すこともできないし、〆ることもできずオタオタしていて……。そんな時に、地元の人が、暴れる魚をサッと針から外して、頭をガツンと叩いて殺してくださいました。

 

都会にいると、漁業や農業など一次産業に就かれている方と接する機会があまりないですよね。今回、僕は五島で漁師の方と過ごす時間がありましたが、改めて「一次産業はすごいな」と感じました。人間が生きていく上で絶対に欠かせないものに従事されているから。

 

そういう自分の無力さを、若いうちに感じられてよかったと思います。自分がこれまで当たり前としてきたことや、正しいと信じてきたことが、実は違っているかもしれない。既成概念をいい意味で覆してくれるヒントが、五島のいたるところにありました。

 

360度見わたす限り海


そして、何より船に乗って沖に出ている時がたまらなかったですね。

 

東京にいる時も、月に1回くらいは湘南の海に行くんです。カーシェアリングの車を走らせてひとりでふらりと。海辺のカフェなどで本を読みながら、これからのことを考えたり、平日の忙しさから距離を置いたりするために、ここ2年くらいはそういう時間を意識して作るようにしています。

 

でも、五島の海は全然スケールが違いました(笑)。沖に出ると、360度すべて海。トビウオがあたりにたくさん飛んでいて、空には海鳥が群をなしていて。途中から波が激しくなりましたが、それでも「この海をずっと見ていたいな」と思いました。なんと表現すればいいのかわかりませんが、自然が壮大で人間が小さな存在にすぎないんだ、人間も自然の一部なんだということを素直に体感できた気がします。

 

今、ちょうどイスラエル人の歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリの大ベストセラー『サピエンス全史』を読んでいることもあり、長い長い生命の歴史における「人間」という存在について、ふと考えさせられる瞬間がよくあります。五島の海で過ごした時間もまさにそうでした。海を眺めているうちに、心がフラットな状態に戻っていくのがわかりました。あの時間はかけがえのないものでしたね。



 

リモートワークの候補地としての五島


僕は昨年27歳で独立して現在自営業なのですが、将来的には「山」と「海」のあるところで、リモートワークをしながら暮らしていきたいと考えています。

 

今回の旅で「五島」もその候補地に入りましたね。もちろん海もきれいなのですが、入江が山に囲まれていたり、くねくねとした山道の途中でパッと鮮やかな青の海が見えたりと「山」と「海」が組み合わさって素敵な風景を生み出している点にも、魅力を感じました。

 

他の候補地としては、ニュージーランドのウェリントンも気になっていて、今度見に行くんですが、地元の方々の人柄の面でも、食の豊かさの面でも、五島は有力です。近い将来、五島でリモートワークをしながら生きていけたら、本当に最高ですね。

 

スマホを常にチェックする毎日から離れて


自営業とはいえ、4泊5日仕事を離れるのは、実は結構覚悟がいりました。でも、やってみたら案外できましたね。実際5日間はほとんど仕事をしませんでした。スマホの電波が入らない場所もあるので、常にスマホで仕事の進捗をチェックしているあの日常から離れられてちょうどよかったです。

 

その代わりに、人と話す時間がたくさん持てましたね。一緒に旅をした同年代の人とランニングをしたり、海で泳いだり。アクティビティをしながら、それぞれキャリアのことや、将来どうしていきたいかについて語り合いました。単なる雑談ではなくて、深い話ができてとても楽しかったです。

 

五島の自然の中で一緒に身体を動かして、心もほぐれていたから初対面でもあれほど打ち解けたいい時間が過ごせたんじゃないかと思います。


(1番目と4番目の写真は福江島在住の写真家・廣瀬健司さんによる撮影、それ以外は旅行者からの提供)