mitsutabi

2018/11/29 06:48



旅とは、自分の体と心を日常から離れた場所に置いてみること。いつもと違う風と光を浴び、いつも違う人と言葉に触れ、「非日常」で五感を満たしてみる。昨日までの連続を、一度ぷつりと断ち切ってみる。

 

感じることが変わると、考えることが変わる。考えることが変わると、やがて生きかたそのものも変化していく。旅に出る前の自分と、旅から戻った時の自分に、わずかでも変化があったなら、それはきっと”いい旅”だったと言えるはず。

 

長崎・五島列島を舞台に、そんな新しい旅の形を提案している「つめる旅」。今回「みつめる旅」をしたのは、こんな人です。


旅をした人:大嶋祥誉さん

旅とショッピングが大好き。最近ハマった旅先はインド。仕事では、外資系コンサルティングファームや日系シンクタンクで経営・人材戦略コンサルティングに携わったのち独立、エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタントとして活躍している。また世界のエグゼクティブから支持される「TM瞑想」のインストラクター資格を持ち、ビジネスパーソンのメンタル面のサポートにも当たるマッキンゼーで当たり前にやっている働き方デザイン日本能率協会マネジメントセンター)、『マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術』(青春出版社)など累計30万部を超える著書があり、ビジネス書作家としても知られる




大嶋祥誉さんの「みつめる旅」in 五島列島


1日目(羽田から長崎経由で鯛ノ浦)

2日目(❶蛤浜付近)

3日目(❷頭ケ島から❸桐古里・若松)

4日目(❸桐古里・若松)

5日目(奈良尾から長崎経由で羽田)

3度のがん」と五島への旅

 

五島にいると、生きるペースが自然と丁寧になっていきますね。

 

ほんの数日の短い滞在期間でも、着いた翌朝から何かが違うんです。目を覚まして、顔を洗って、空を見上げて、朝ごはんを食べて、散歩をして……その動作のひとつひとつがごく自然と丁寧になっていくのがわかりました。とはいえ、特別な感じはなくて、命あるものとしてごく普通に、一呼吸一呼吸がゆったりしたものになっていきます。

 

私は実は過去に3回、がんを患っています。最初にがんと診断されたのは40代前半。胃がんでした。それまでは、自分も人間なんだからいつか死ぬということはわかっていたけれど、当然ながら「遠い話」でした。まあ、いつかそのうち、という感じ。ところが、突然「死」がリアルな存在に変わり、たとえば、桜を見ていても「来年はもう見られないかもしれない」という感覚を持つようになりました。

 

幸いにも、がんの治療はうまくいき、現在は何不自由なく生きていますが、がんになって以来、「今、自分が本当にしたいことは何か」を考えて毎日を過ごすようになりました。一日一日を後悔しないように、丁寧に過ごすことが大事なんだ、と身に沁みて思いました。



 

「雑」になった毎日を癒す場所


でも、東京にいる時は、ふと気づくと生活が「雑」になってしまっていることが多々あります。

 

特に外資系コンサルティングファームを経て、人材コンサルタントとして独立してからは、会社を経営しながら忙しい日々を送っています。毎日やることがありますし、少しでも予定が空いているとスケジュールを詰め込んでしまう。本当は週に1日か2日は仕事をしない日をつくりたいと思っているのですが、なかなか実現できずにいました。

 

そんな私にとって今回の五島の旅は、特別な時間となりました。

 

少し前から世界各地、日本各地の「パワースポット」と呼ばれる地域が話題になっていますが、五島も紛れもなくパワースポットですね。とにかく流れている時間が豊かです。滞在中、何か特別なことをしていたわけではありませんでした。朝、起きて近くの蛤浜(中通島)でヨガをして、そのあとはシュノーケリングをしたりして遊んでいただけ。ライフジャケットを着てプカプカと浮かびながら入江の中を泳いでいると、すぐそばをエイたちが通り過ぎていったり。

 

一緒に旅をした仲間たちの顔も、みるみる変化していきました。みなさん、普段はバリバリ仕事をしている社会人なのですが、五島で過ごすうちにとても無邪気な顔になっていきました。



 

私の中でも、一つの変容がありました。

 

がんの治療中、主治医から「もし転移したら完治は難しいかもしれない」と言われていた時期もありました。その時、自分の中に「生」に対する執着がすごくあることを意識せずにはいられなかったんです。

 

今も再発・転移の可能性を抱えながら生きていますが、五島でそんなふうに豊かな時間の中で戯れながら過ごしていると、「生」に対する執着が手放せた感覚がありました。なんというか、私という「個」が生きている時間と、命のつらなりとしての永遠がちゃんとどこかで繋がっていると身体で理解できたというか。五島に身を置いていること自体が、ある種の瞑想であるような。言葉で表現するのは難しいですが、何か不思議なヒーリング効果のある旅でした。

 

「私たちは、もっと遊べばいいんだ」


今回の旅を通じて学んだことは、「私たちは、もっと遊べばいいんだ」ということですね。

 

人材コンサルタントという仕事柄、たくさんのビジネスパーソンと日々お会いしますが、最終的に成功する人は仕事にも「遊んでいる」という感覚を持ち込んでいますね。何かをやることに理由や意義を無理に求めず、ただ好きだから、ただ楽しいからやる。どこまでも無邪気に遊んでいるかのように、仕事に打ち込む。そういう方ほどホンモノである気がします。私たちは普段、「仕事」と「遊び」を分けて考えてしまいがちですが、本来は分ける必要がないのでしょう。

 

五島の美しい海と空を目の前にした時、「ただ、この時間を心から楽しめばいいんだ。遊べばいいんだ」と何の疑いもなく思えたこと。それが私の中ではとても大きかったです。


(写真はすべて福江島在住の写真家・廣瀬健司さんの撮影)