mitsutabi

2018/10/04 06:33



旅とは、自分の体と心を日常から離れた場所に置いてみること。いつもと違う風と光を浴び、いつも違う人と言葉に触れ、「非日常」で五感を満たしてみる。昨日までの連続を、一度ぷつりと断ち切ってみる。

 

感じることが変わると、考えることが変わる。考えることが変わると、やがて生きかたそのものも変化していく。旅に出る前の自分と、旅から戻った時の自分に、わずかでも変化があったなら、それはきっと”いい旅”だったと言えるはず。

 

長崎・五島列島を舞台に、そんな新しい旅の形を提案している「みつめる旅」。今回「みつめる旅」をしたのは、こんな人です。

 

旅をした人:塩見拓也さん

1991年大阪生まれ。普段は事業会社で会社員としてマーケティングに携わっている。趣味は筋トレと瞑想、座禅など。将来は人の生と死に深く関わるような事業を手がけたいと考えている。



  

塩見拓也さんの「みつめる旅」in 五島列島


1日目(羽田から長崎経由で鯛ノ浦)

2日目(❶蛤浜付近)

3日目(❷頭ケ島から❸桐古里・若松)

4日目(❸桐古里・若松)

5日目(奈良尾から長崎経由で羽田)

 


「五感で生きる時間」は豊かだった


今回は45日でゆったりと中通島〜若松島をまわる旅だったんですが、3週間が経った今こうして思い出してみても、とても豊かな時間でしたね。ある意味、あの豊かさを知ってしまったがゆえに東京に戻ってきてから、いろんなことに違和感を覚えるようになりました(笑)。

 

たとえば、身体の感覚。旅から戻ってきて1週間ほどはずっと身体に違和感があったんです。うまく言えないですけど、身体の表面がブツブツする感じ。パソコンに向かっている時とか、電車に乗っている時とか、ビルの間を歩いている時とか、ふとした瞬間に身体が気持ちよくないと気づく場面がありました。




五島にいる時は、五感で生きている時間がほとんどだったと思うんです。スマホも見ませんでしたし、テレビもつけませんでした。朝はビーチでヨガをしたり、昼は仲間と釣りをしたり教会をめぐったり、夜は自分たちで釣った魚や地元の食材で作った料理を食べて満天の星を見て……。連日そんなふうに過ごしていたので、全体的に「感じる」ことがたくさんありました。

 

でも、東京に戻ると「五感」より「思考」で生きている感じがするんです。割合にすると、思考:五感=91もしくは100かな。常に頭がオンの状態で余白が全然ないんですね。だから、どうにか東京の生活でも頭をオフにして、五感で生きる「余白」を作りたいと強く思うようになりました。

 

たとえば、仕事を終えて自宅に帰ったら、ほんの5分ほどでも座禅を組んでみる。以前から座禅をすることはありましたが、ルーティンとして身体が欲するようになったのは五島の旅の後からです。それをやらないと、身体がなんだか気持ち悪くて。五感で生きる時間がこんなに豊かだったのかと気づきました。



 

「海の中の星空」を眺めながら


一番印象的だったのが、旅の最終日の夜に地元の方にナイトクルーズに連れていっていただいた時のことです。7人乗りくらいの小さなクルーザーで、沖の方まで出ていきすべての灯を消した瞬間、満天の星空がそのまま凪の海面に映り込んでいて。まさに「海の中の星空」で息を呑みました。

 

感動して涙を流している人、ただ黙ってタバコを吸っている人、歓声を上げている人……反応は人それぞれでしたが、全員が「いいなあ」と感じていました。

 

こんなふうに何かを共有する人間関係って、東京で普通に生活しているとなかなかないですよね。海に浮かびながら星空を見あげて、自分も地球の一部なんだ、自然の一部なんだって身体で感じながら、旅の仲間とすてきな感情を共有できたことも、「豊かさ」の一つでした。

 

リゾートの海とは違う魅力


実は最近「旅先を決めるが難しいな」と感じています。五島以外では、これまでフィリピンのセブ、タイのプーケット、インドネシアのバリなどに行きましたが、どこも体験としては似ているんですよね。白浜のきれいなビーチがあって、その向かいにはそこそこ豪華なホテルがあって、物価が安くて、ごはんが美味しくて、あとはちょこちょこ遺跡を観光したりして。どこもそれほど変わらないから、行き慣れた場所ばかり旅するようになってしまう。

 

でも、五島の体験はそれとはまったく違っていました。五島の海は単なるリゾートじゃない。生活と海がとても近い感じがするんです。山道をレンタカーで走っている時、カーブの先から不意に覗く海、民家のそばの漁船が碇泊している海。どこから見える海も青く透き通っていて。リゾートという特別感ではなく、ただ生活の中にある海が普通に美しい。

 

五島の海に触れていると、他のリゾート地の海に触れている時には感じない、独特の懐かしさを覚えます。都会育ちの僕にはふるさとと呼べるような原風景はないのですが、どこか懐かしく、自分が自分のままでいられる場所という気がしてくるから不思議です



 

五島は未来について考える場所


五島にはまた旅に出かける気がします。次は奥さんとふたりで行きたいですね。あの自然の中に身を置いて、たくさん語らいたいなあと思います。将来をどうするか、人生のパートナーとしておたがいにどうありたいか、仕事をどんなふうにしていきたいか。未来に対するベクトルを一緒に合わせていくような、そんな時間を次の旅では過ごせたらいいな、と。

 

僕にとって旅は、次のビジョンを見つけるための時間なんです。

 

今日はどんな1日だったかとか、この1週間でどんな発見があったかとか、それが将来どんなふうに生きてくるかとか、そういう「棚卸し」の作業は日常的にしています。でも、振り返る期間が1年など長くなってくると、その「棚卸し」の作業に膨大なエネルギーが要ります。情報量が多いから、自分の感覚が研ぎ澄まされていないとうまく整理できない。だから、旅に出て自分の身体が解放されるような自然の中に身を置くようにしています。

 

過去を棚卸しして、未来について考える。その時間を持つ場所として、五島はとてもいいなと感じました。


(写真撮影:旅行者自身によるもの)