mitsutabi

2018/08/07 14:01


五島列島、7月26日午後7時30分

夏の五島は、夕方がとても長く感じられます。17時くらいから陽の光が黄色を帯び、「そろそろ今日も終わりだなあ」と感じ始めて、あたりが暗くなる20時半くらいまで3〜4時間。

そんな長い夕暮れの時間に、ピンク色に染まったビーチを歩いていく20代のカップルがいました。場所は福江島の高浜(たかはま)ビーチ。女の子は地元出身で、男の子は香港出身。明日の朝にはそれぞれの勤務地に向けて島を離れ、また遠距離恋愛が始まります。五島のことは大好きだし、最近体調のすぐれないおばあちゃんのことも心配だから地元にいたい。せめて、次の休暇も戻ってこられるように頑張って貯金をしなきゃ。そんな揺れ動く心を抱えながらの絶景デートなのでした。

東京、8月13日午前7時19分

大小約150の島々からなる五島列島の中で、最大の島・福江島。年々、人口は減り続けているものの、今でも約3万5000人の人が暮らしている。私もこれまで3回訪れたけれど、生活するにもフツーに便利だ。 

道路は綺麗に舗装されているし、食料品や日用品もスーパーやドラッグストアで東京と同じように買える。1日くらい余計に時間はかかるけれどアマゾンも届く。居心地のいいカフェもある。東京で子育てしている身としては、広々とした保育園、室内プール、信じられないくらい広い体育館がコンパクトな島の中に揃っていて、「むしろ、こっちの方が便利じゃない?(しかも利用料も安くて空いている)」と感じるくらい。1週間ちょっと滞在していたけれど、「離島ならではの不便」は、ほとんど感じなかった。

それでも、毎年春になると進学や就職のため、たくさんの高校生がフェリーで島を離れていく。「島を離れる人」と「島に残る人」が握る色とりどりの紙テープが、フェリー出港時に太い縄のように絡まり合いながら海に落ちていくのは、島の人にとってはもの悲しい風景だ。

でも、その一方で、最近少しずつ増えているのが、移住してくる人の数。おじいちゃんかおばあちゃん、または親やパートナーが五島出身だからとか何か縁があってやって来る人、「東京でやりたいことはやったから、次はこういう場所で暮らしたい」と心に決めて来る人、「ただただ島が好きで、島に住みたいから」とふわりと来る人、「沖縄は都会すぎるから、五島がちょうどいい」と比較検討した上で来る人。いろんな理由でU・Iターンする人が、特に20〜40代の若い世代で増えているらしい。

福江島(五島市)では、ここ数年人口の流出が減っていると聞いた。つまり、転入する人の数から転出する人の数を引けば、やはりマイナスではあるものの、その幅が小さくなっているそうだ。五島市では例年200人超のマイナスだったのが、2017年には135人になったという。

「仕事がないから」「島の外に出て、もっと自分の可能性を試したいから」と島を離れる人もいれば、「やっぱり五島の海や人と生きていきたい」と島に残る人もいる。そして最近では、都会で働いたり遊んだりひと通りのことは楽しみ尽くした末に、ひょいと島にやって来る人も増えている。

「ここで生きていきたい」と思える場所を、みんなが探している。私だって、そうだ。大学を離れてから東京に住み始めそろそろ10年になるけど、正直、結構飽きてる。「東京はもういいかな」って思う。長い長い五島の夕暮れに、ビーチを歩いていく遠距離恋愛中のカップルも葛藤している。

私たちは一体どこで生きるのが幸せなんだろう?

東京からみつめた「五島列島、7月26日午後7時30分」の風景。


写真を撮った人:廣瀬健司

生まれも育ちも五島列島・福江島。東京で警察官として働いたのち、1987年に五島にUターン。写真家として30年のキャリアを持つ。2001年には「ながさき阿蘭陀年 写真伝来の地ながさきフォトコンテスト」でグラプリを受賞」。五島の「くらしと人々」をテーマにした作品を撮り続けている。2011年には初の作品集『おさがりの長靴はいて』(長崎新聞社)から出版。地元の若手写真家の育成にも尽力する、五島愛の塊のような熱い写真家。

文章を書いた人:鈴木円香

編集者。1983年、兵庫県・明石生まれ。もともとは本の編集をしていたが、独立してからは本、雑誌、ウェブなどジャンルを問わずで仕事をしている。友人が移住したのをきっかけに2017年夏に家族で五島・福江島を訪れて以来、抗しようもなく五島に惹かれ続ける。同年9月には五島で船舶免許を取得。五島の魅力をもっと広めたいと、11月からは五島在住の写真家と一緒に「毎日が絶景」PROJECT in 五島列島を立ち上げる。


この記事は、paper版「みつめる旅」vol.1に収録された内容の一部です。


※増刷・次号の発行も、制作費のめどが立ち次第進めてまいりますが、現在のところ時期は未定です。