mitsutabi

2019/05/30 18:24



旅とは、自分の体と心を日常から離れた場所に置いてみること。いつもと違う風と光を浴び、いつも違う人と言葉に触れ、「非日常」で五感を満たしてみる。昨日までの連続を、一度ぷつりと断ち切ってみる。

 

感じることが変わると、考えることが変わる。考えることが変わると、やがて生きかたそのものも変化していく。旅に出る前の自分と、旅から戻った時の自分に、わずかでも変化があったなら、それはきっといい旅だったと言えるはず。

 

長崎・五島列島を舞台に、そんな新しい旅の形を提案している「みつめる旅」。今回「みつめる旅」の中のスペシャルツアーとして、「みつめる旅humaity」を開催しました。



 

山口周さんとめぐる34

 

「みつめる旅 humanity」は、作家・山口周さんと共に、五島列島の福江島・奈留島・久賀島をめぐる内省の旅です。

 

山口周さんは、ご著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)がベストセラーとなり、今ビジネスパーソンがもっとも会いたい知識人とも言われる存在。思想家・哲学者として、これからの社会や組織のありかたについて示唆に富んだ発言を続けられ、多くのトップビジネスパーソンから高い支持を得ています。



山口周さん:1970年東京都生まれ。読書と、海で太陽の光を浴びることが何よりも好き。現在は家族と神奈川県・葉山で暮らしている。外資系人材コンサルティングファームでシニアパートナーを務めた経験も持つ。『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』(ともに光文社新書)など数々の著書を出版し作家としても活躍している。


>>>山口周さんの「みつめる旅」のレポートはこちら

 


「人はなぜ生きるのか」を考える旅

 

今回の旅のテーマは、「humanity(ヒューマニティ)」です。

 

「人間」は、これからどこへ向かうのか?

 

「人間」は、いかに生きることが幸せなのか?

 

この問いに答えを出すために、「人間」とは何かを考える。それが「みつめる旅 humanity」で一番大事にしていることです。日本の最西端・五島で、人工物の少ない無垢な自然の中に身を置き、都市部とは異なる原理で動いている人間関係に触れ、そして現代人にはおよそ想像もつかない過酷な信仰の歴史を体感すること。そして、普段の肩書を外した旅の仲間と、等しく人として在り、語らうこと。




すべてが経済合理性に収斂された都市に生きる人間の姿からはかけ離れたものに触れた時、初めて「人間」という存在への思索が始まります。 


これからの社会で新しい価値を生み出していく私たちに不可欠な、人間性(ヒューマニティ)に対する深い洞察。人間が人間に還る場所「五島」で、心身を通じてヒューマニティについて内省する34日の旅です。



 


風と身体


1日目、ランチタイムからスタートした「みつめる旅 humanity」。福江島の富江ビーチを前に、Iターン移住された料理家・小本崇広さんのケータリングサービス「こものて」の食事をいただきます。キビナマリネにブリやアジのカルパッチョ、そら豆のフリット、アゴ出汁のソースがかかった五島豚のロースト……と五島の旬の食材ばかりで作った料理が、ゆったりとした時間の中でテーブルに並びます。



 

肌を撫でる温かく優しい潮風、絶えず耳に届く平安な鳥のさえずり、鼻から吸い込まれる柔らかな海の匂い。いまだ人工物がほとんどない五島の自然に身を置き、五感を通してゆたかな情報を取り込むことで、内省に適した心身の状態を取り戻していきます。

 

ランチの途中で参加者の皆様に配られたプレゼントが、こちらのノート。オーダーメイドノートのカキモリさん(東京・蔵前)が今回の旅のために特別に仕立ててくださったオリジナルノートです。



 

「みつめる旅 humanity」では、34日の間できるだけデジタルデバイスを手放し、ネットワークから離れて過ごすことをおすすめしています。自然の中に身を置いて感じたこと、旅の仲間と語らいながら気づいたこと、潜伏キリシタン遺産をめぐって考えたこと。頭に浮かんだ事柄を、普段のようにデジタルデバイスに入力するのではなく、滑らかな紙にペンを走らせて書き留める。その身体の動きを通じて、新しい思考の回路が開き始めます。

 

小脇に抱えられるB6サイズの小さなノート。ノートに使用されている紙は、銀行の帳簿に長年使用されてきた「BANK PAPER」と呼ばれる特別な紙です。インクのなじみがよく、長期の保管に優れた紙とされています。旅のお供に、そして大切な思い出に。「みつめる旅 humanity」を象徴するアイテムです。

 

石と言葉


ランチのあとは、コーヒーをいただきながら引き続きビーチの前で、オープニングトークがゆっくりとスタートします。

 

見渡すかぎりの海と、どこまでも広がる青空。その境界に身を置き、五感が解放された時、自分の内側から自然に生まれてくるのは、どんな感覚であり、言葉だろうか。何について話すかは決めず、ただ頭に浮かんでくることを丁寧に言語化していきます。

 

語るのは、「石」を握っている人だけ。山口周さんが富江のビーチでひとりしゃがみ込んで黙々と選び抜いた石。ころんとしていて、すっぽりと手のひらに収まる大きさで、ほどよい重みがあり、太陽の熱で温められていました。



 

沸き起こる感覚を掴みとるまで、そしてそれにぴたりと当てはまる言葉が見つかるまで、手のひらで石を転がしながら沈黙していても構いません。話し始めて違和感を覚えれば、「石」は他の人に委ねてOK。呼吸をするように、言葉を紡ぎ、吐き切る。普段、言葉を操ることに慣れすぎている私たちが、自分の中にあるものを丁寧に言語化し、共有することで、深い信頼に裏打ちされた人間的な繋がりが回復されていくのを感じます。



 

火と仲間


1日目の夕方から夜にかけては、五島の海の幸をふんだんに使ったBBQを楽しんだあと、参加者みんなで焚き火を囲みます。夜空には、東京では考えられないほどのたくさんの星。薪のはぜる音と虫たちの鳴き声に囲まれて、夜の静かなダイアローグがスタートします。



 

「みつめる旅 humanity」では、旅の随所で、参加者同士が語らう時間(ダイアローグ)をとても大切にしています。説明するために、説得するために、交渉するために、私たちは日常の中で言葉を巧みに操るよう求められています。淀みなく理路整然としていること、自信や確信に満ちていることが要求されがちな「日常の言葉」から離れて内省し、内面にあるnonverbalな感情や思考を、正確に掬い上げられる言葉を再発見していくプロセスです。

 

そして最後に、翌日の奈留島・久賀島へのエクスカーションに向けて、山口周さんから「ヒューマニティと信仰の歴史」について思索のヒントをいただきました。

 

カクレキシタンの方々は禁教の時代に「心からでなくてもいい、形だけでいいから踏み絵を踏めば、命は取らない」と言われても、踏み絵を踏まず殉教していきました。そういう歴史に触れた時、私たちは「なぜ?」と驚き、改めて「人間とは、一体何なのだろう?」と考え始めます。そして、それがまさにヒューマニティの洞察に繋がっていきます

 

今、なぜ五島でヒューマニティについて考えることが、私たちにとって大きな意味を持つことになるのか。その問いを抱えながら眠りにつきます。




>>>後編では、奈留島・久賀島へのエクスカーション、クロージングトークの様子をお届けします。


お知らせ▶︎▶︎▶︎「みつめる旅 humanity」は、初回はミレニアル世代から支持を集めるウェブメディア、Business Insider Japanさん主催の「五島列島リモートワーク実証実験」(後援:五島市、長崎県)内で開催された特別企画でしたが、今後は未来の社会をつくるビジネスパーソンを対象とした、紹介制のクローズド・ツアーとして運営していきます。



掲載写真について▶︎▶︎▶︎「みつめる旅」は、五島在住の写真家さんたちを中心となって五島の魅力を発信する「毎日が絶景PROJECT in五島列島」のメディアとして2017年にスタートしました。内面からの地方創生を目指して、1240キロ離れた五島と東京がたがいに大切な何かをGIVEしあえる持続可能な関係性を思索しながら運営しています。今回の「みつめる旅 humanity」の写真はすべて、福江島在住の写真家・廣瀬健司さんが撮影しています。五島で生きる人だからこそ知っている「五島」を伝えるため、廣瀬さんは、ツアーの構成や旅程のプロデュース、現地のアテンドまで関わられています。


廣瀬健司(ひろせ・たけし)さん:生まれも育ちも五島列島・福江島。東京で警察官として働いたのち、1987年に五島にUターン。写真家として30年のキャリアを持つ。2001年には「ながさき阿蘭陀年 写真伝来の地ながさきフォトコンテスト」でグランプリを受賞」。五島の「くらしと人々」をテーマにした作品を撮り続けている。2011年には初の作品集『おさがりの長靴はいて』(長崎新聞社)から出版。地元の若手写真家の育成にも尽力する、五島愛の塊のような熱い写真家。


※増刷・次号の発行も、制作費のめどが立ち次第進めてまいりますが、現在のところ時期は未定です。