mitsutabi

2019/05/08 06:35





長崎・五島列島を舞台に、自分と向き合う新しい旅の形を提案する「みつめる旅」。

 

五島の毎日の暮らしの中には、旅する人が心あらわれる風景がたくさん眠っています。

 

懐かしい感情を呼び覚まさしてくれる風景、

生きる喜びが湧きおこる風景、

大切な人と一緒に眺めたくなる風景……

 

そんな風景を、五島列島で活躍する写真家のみなさんと一つ、一つ丁寧に掘り起こしていくプロジェクトが、「毎日が絶景」PROJECT in 五島列島です。写真家さんがレンズを通して切り取る、心にしみる五島の絶景。そこから、感じること、考えること、気づくことが、きっとあるはず。

 

今回の「毎日が絶景」は、福江島で活動する写真家・廣瀬健司(ひろせ・たけし)さんが撮った「丸木漁港の漁師のおじさん」。



 

ある春の午後、小さな波でもすぐにチャポチャポと揺れるような小さな漁船と漁師小屋を行き来して、明日の漁の準備をするおじさん。

 

おじさんは、延縄(はえなわ)で「底もの」と呼ばれる魚を獲る。狙うのはカサゴやオコゼといった高級魚。たまにはクエも掛かる。カサゴは、五島では「アラカブ」という名前で知られている。よく味噌汁にして食べられる魚だ。

 

カサゴは「高級魚」とされてはいるけれど、買取価格は年々安くなっているらしい。だから、たくさん取らないと生活していけないそうだ。



 

おじさんはアルバイトも雇わずいつも一人で仕事をしている。五島には、延縄に餌をつけたり、網をつくろったりするだけのアルバイトがあるが、おじさんは小漁師だから何でも自分でやってしまう。早朝に漁に出て、昼間は翌日の漁のために餌をつけたり、船に燃料を入れたり、港で黙々と働いている。



 

最近は体調があまりよくないようで、病院に通う姿も時々見かける。一人暮らしで、食事の準備も慣れたもの。歳は、聞いたことはないけれど、60代半ばだろうか。

 

また風が吹いてさざ波が立ち、チャポチャポと音を立てておじさんの船が揺れる。薄曇りの空から差す優しい光。福江島・丸木漁港の春の午後です。




写真を撮った人:廣瀬健司


生まれも育ちも五島列島・福江島。東京で警察官として働いたのち、1987年に五島にUターン。写真家として30年のキャリアを持つ。2001年には「ながさき阿蘭陀年 写真伝来の地ながさきフォトコンテスト」でグラプリを受賞」。五島の「くらしと人々」をテーマにした作品を撮り続けている。2011年には初の作品集『おさがりの長靴はいて』(長崎新聞社)から出版。地元の若手写真家の育成にも尽力する、五島愛の塊のような熱い写真家。