2018/10/22 06:43
旅とは、自分の体と心を日常から離れた場所に置いてみること。
感じることが変わると、考えることが変わる。
長崎・五島列島を舞台に、そんな新しい旅の形を提案している「
旅をした人:日高誠人さん
横浜で妻と愛猫3匹と暮らしている41歳。普段は、採用関連の広報ディレクション業務に携わっている。趣味は読書、音楽鑑賞、散歩。今一番興味があることは、一人ひとりの人生にポジティブな変化を起こすような、新サービスの開発と組織開発。
日高誠人さんの「みつめる旅」in 五島列島
1日目(羽田から長崎経由で鯛ノ浦)
2日目(❶蛤浜付近)
3日目(❷頭ケ島から❸桐古里・若松)
4日目(❸桐古里・若松)
5日目(奈良尾から長崎経由で羽田)
Googlemapなしで散歩する楽しさ
今回の旅では、とにかくたくさん散歩をしました。小さなリュックサックに、読みたい本と財布だけ入れて、ただただ島内を歩いていたんです。知らない土地を旅すると、そんなふうに目的もなく散歩するのが好き。その土地の人が、何を感じたり考えたりしながら生活しているのか見たいんです。
たとえば、バス停の前にあった小さな酒屋さんを覗いてみると、酒瓶の下にレンタルDVDが20本くらい並んでいたり。家族みんなで観られるような、いわゆるメジャー作品ばかりで、たぶん、近所のお客さんから「お酒を飲みながら観たいから置いてよ」と言われて置いているのかな、と想像する。バスが来たら、それにヒョイと乗ってみる。車内アナウンスが五島弁だったり、一日に数本しかないので島中をぐるりとまわり切るようなルートになっていたり。そういう小さな発見のひとつひとつが楽しいですね。
どこに行けば何があるのかも調べず、Googlemapなども一切見ずに歩いていくと、目の前に不意に絶景があらわれます。今回訪れた上五島は、複雑な入江が続いているので、曲がり道を進んだ先に突然エメラルドグリーンの海が見えて、散歩中何度もハッとさせられました。
「暮らし」が見られる旅
そんなふうに「暮らし」が見られる旅に、最近はとても魅力を感じますね。
おしゃれなホテルや、贅を尽くした食事も嫌いではないのだけど、地元の方が日常の延長線上でもてなしてくださった時に特に胸を打たれました。自分たちで釣った魚を、その場でさばいていただいた刺身と塩握りだけで食事をして。骨と頭だけになった魚を地元の人がサッと海に投げ捨て、それが透き通った海の中にゆらゆらと落ちていって。そういう光景は「暮らし」が感じられてとてもいいな、と。肩肘を張らないもてなしに心満たされる瞬間が、五島ではたびたびありました。あらかじめ決められたパッケージだと、絶対に味わえなかったと思います。
他にも、たまたま知り合った地元の人が、「星空を見に行こう」と夜に船を出してくださったり、アワビごはんを炊いて持ってきてくださったり。その人なりの気遣いで精一杯のことをしてくださる。そういうのって、お金を払って定型のサービスを受けるより、何倍も嬉しいですよね。
私たちは、日常でも旅先でも「お金を払ってサービスを受けること」を当たり前に思っているけれど、そうじゃない。「お客さんと、物やサービスを提供する人」の関係ではなくて、人間同士の繋がりだから、感謝の気持ちが生まれるし、自然と「また会いたい」と思えます。
ひとりの人間に戻れる場所
今回の4泊5日の旅は、ある種のunlearnの体験だったと感じています。
unlearn(脱学習)とは、自分にまとわりついている思考や価値観を一度はずして、新しい考えかたを取り込めるような心身の状態をつくること。私が東京で携わっている人材教育の世界ではよく使われる言葉なのですが、そのunlearnが、五島にいる間に自分の身に起きたと強烈に実感しましたね。心身ともに、余計なものがふるい落とされてデトックスされた感じです。
5日間という時間をかけたから、よかったのだと思います。これが2泊3日だと慌ただしくて、そこまで深い体験にはならなかったでしょう。
五島は「ひとりの人間に戻れる場所」です。都会でビジネスの世界に身を置いていると、知らず知らずのうちにいろいろな価値観や思考に囚われている気がします。そこから自分を解放して、肩書も何もないひとりの人間になる。そして、純粋な人間力で地元の人と関わる。もし、自分の中に無神経さや尊大さがあれば、相手の方も気分を害して何もしてくださらないかもしれないという、緊張感が好きですね。
それって、ごくベーシックな人間関係だと思いますが、「お金でサービスを買うこと」に慣れすぎている私たちは、案外忘れてしまっているかもしれません。
お金を払う対価として、すばらしい景色を見ておいしいものを食べられる場所なら、国内外を問わずいくらでもありますよね。でも、五島は、他のリゾートとは根本的に違うんです。物質的にというより、とにかく精神的にとても満たされる場所。こういう旅の目的地はなかなかないと思いますね。
(写真撮影:上から順に1、2、3、5番目は五島在住の写真家・廣瀬健司さん、4番目は旅行者によるもの)